こんにちは、Nameck(なめっく)です。
今回のテーマは登校刺激についてです。
ネット記事や書籍などでは登校刺激は与えないほうが良いと書かれたものも多く、登校刺激を与えて良いのか、与えるとしたらどのようにすれば良いのかが分からない親御さんも多いのではないでしょうか。
・登校刺激は与えてはいけないものなの?
・登校刺激はどのように与えるべきなの?
こういった思いに答えるために、次のポイントを解説していきます。
【この記事で学べること】
- 登校刺激とは
- 登校刺激は与えてはいけないものなのか
- 適切な登校刺激の与え方
本ブログの内容は、科学的に分析された心理学論文の情報に基づいています。
それでは、さっそく登校刺激について学んでいきましょう!
登校刺激とは
登校刺激とは、不登校児に対して学校へ行くよう促すことを指します。
例えば、次のような言葉が挙げられます。
- 「学校へ行きなさい!」
- 「学校に行ったら楽しいことがあるかもよ」
- 「このまま家に居続けてどうするつもりなの?」
このような、直接的な表現は登校刺激の代表例です。
しかし、それだけではありません。
不登校児は「自分が学校に行っていないこと」に敏感になっているケースがほとんどです。
このような罪悪感を抱いていると、学校に関わるあらゆる刺激が登校刺激となり得ます。
例えば次のようなものが挙げられます。
- 「今度学校で行事があるみたいだよ」
- 学校に行かないことにイライラした態度を出したり、ため息をつく
直接的に学校に行くように促してはいませんが、このような言動も登校刺激に含まれてしまうのです。
それだと、学校に復帰ってできるのかな…?
それでは、登校刺激は与えてはいけないのかどうかについて考えてみましょう。
登校刺激は与えてはいけないのか
書籍やネット記事の多くでは、登校刺激を与えるべきではないという主張がなされています。
しかし、これは誤りです。
学校へ復帰するためには、周囲の大人が背中を押してあげることは必要なのです。
それでは、なぜ登校刺激自体がタブー視されるようになったのでしょうか。
登校刺激に対する認識の移り変わり
古くは登校刺激は与えるべきものであると考えられていました。
1980年代の不登校は「登校拒否」と呼ばれており、その時代は学校に行くことは当たり前でした。
そのため、積極的に学校に行くよう促すべきであり、強引にでも学校に行かせるということも少なくなかったようです。
しかし、このような対応を行うと、その日は学校に行くものの、次の日には部屋にカギをかけて閉じこもってしまうなど学校への拒否感が強くなってしまうという事例が散見されるようになります。
これを受け、1990年代からの不登校への基本的対応方針は「学校に行きたくない」という子どもの気持ちを優先すべきであり、登校刺激は控えて子どもの変化を待つという方向に変わっていきます。
その結果、書籍やネット記事でも「子どもに登校刺激を与えるのは大人のエゴ」や「子どもはエネルギー不足のため、子どもが自発的に学校へ移行するまで何もすべきではない」という主張がなされています。
しかしこれは誤りです。
登校を促すことなく漫然と過ごすことは、不登校の長期化をもたらします。
不登校は長期化すればするほど、生活のルーティーン化が強固となるため、解決が困難になってしまうのです。
そしたら誤った登校刺激を与えないようにしなくちゃ!
登校刺激を控えるべきケース
次のような状況に当てはまる場合、登校刺激は控えるべきです。
- 家庭との信頼関係が構築できていない場合
- いじめや体罰など学校が極めて嫌悪的場面になっている場合
- 不登校状態の自分に強い罪悪感を感じている場合
誤った登校刺激の与え方によっては、さらに状況が悪化して「学校に行きたくない」という子どもの抵抗を強めてしまったり、子ども自身をさらに追い詰めてしまうことになります。
①のようなケースでは、まず子どもとの信頼関係を形成するように努めなければ「自分のことをわかってくれないで、ただ学校に行かせようとしてくる!」と反発を招いてしまいます。
また、②のようなケースでは、学校にある明確な問題を取り去らなければ、不登校の問題は解決しないでしょう。
それでは③のケースはどうでしょうか。
不登校状態の罪悪感とストレス
「学校に行かなければならないのに」と考え、学校に行っていない自分に罪悪感を抱いている子どもに登校刺激を与えると心身の健康を損なうリスクがあります。
Hou・原田(2019)では、「学校に行かなくてはいけない」という登校規範意識と欠席行動・ストレス反応の関連を検討しています。
その結果、学校を苦痛に感じながら学校に行っている子どもは、「学校に行かなければならない」と考えるほどストレス反応が強まったのです。
この結果は何を表しているのでしょうか。
学校を苦痛に感じながらも休むことなく登校している不登校児の典型例としては「良い子の息切れ型」が挙げられます。
学校に苦痛を感じていても真面目に登校する真面目な子にとって、「学校に行ってみれば?」と促す登校刺激はさらに子ども自身を追い詰めてしまうことになってしまうでしょう。
適切な登校刺激の与え方
それでは適切な登校刺激はどのように与えれば良いのでしょうか。
登校刺激を与えるうえで大切となるのは、子どもにとって程よい負荷になるようその強度を調節することです。
そのためには次の事項を守る必要があります。
- 一定の信頼関係(親に対し「嫌だ」と言える)を作ること
- 登校刺激の前に十分な話し合いを行い、子どもがそれに同意していること
- 登校刺激を与えても、子どもが無理だと言い出せる環境を作ること
- 例え少しでも子どもが登校に繋がることを出来た際には、評価し褒めること
子どもに無理な登校を強いて追い詰めてしまうのは、信頼関係の不足や話し合いによる同意が得られていないことが考えられます。
そのため、親目線から登校を押し付けるのではなく、子どもと一緒にどのようにして再登校を目指すのか考える姿勢が求められるでしょう。
また、再登校への道のりはそう簡単ではないことを念頭に置いておくべきです。
そのため、前回はスムーズに教室に入れたとしても、それはいつでもできるわけではないということを頭に入れたうえで登校刺激をすることで、「前回は出来たじゃない!」と怒る気持ちを抑えることが出来ます。
その中で、「朝きちんと起きれた」、「学校に行く準備はきちんと整えられた」のような、たとえ些細なことでも登校に繋がることがあればそれをきちんと褒めましょう。
こうすることで、子どもが挫折することなく、再登校へ取り組むことが出来るのです。
段階的な登校刺激の実践法
園山(1991)によれば、『行動療法』と呼ばれる心理学理論を基とした段階的登校強制法と呼ばれる登校刺激の与え方が、早期の再登校を図るうえで重要であるとしています。
段階的登校強制法は大きく「強制的に登校させること」と「それを段階的に行うこと」の2つから構成されます。
ここでの「強制」は、子どもと話し合い、同意が得られたことについては「今日は気分じゃない」などと言われても毅然として実施するということです。
具体的な流れとしては次の通りです。
- 子どもとの関わりの中から、学習や生活習慣確立の支援を行う
- 再登校へのスケジュールを子どもと話し合い、同意を得る
- 親が登校に付き添ったり、出席する時間を限定する
- 徐々に付き添いの距離を短くしたり、出席する時間を長くする
学習や生活習慣確立の支援
登校刺激を与えようとしても、いきなり「学校に行きなさい」と子どもに伝えるだけでは、反発を招いてしまいます。
まずは子どもに学校で過ごすだけに必要な力があるかどうか、家庭との信頼関係が十分であるかを見極める必要があります。
子どもが学習面で遅れてしまっているようであれば「自宅学習」で学習面のフォローが必要でしょうし、生活習慣が乱れてしまっているようであれば、まずは生活習慣の立て直しが必要です。
それ以外にも、ずっと家に居るために体力が落ちてしまっている場合は外出して体力づくりをする、コミュニケーションに問題があるようであればコミュニケーションを養う機会などを設けるべきでしょう。
再登校のスケジュールの話し合い
どのようなスケジュールで再登校をしていくのかについて話し合います。
具体的には、いつから学校に行くのか、どこまで登校の付き添いをするのか、そのくらいの時間学校にいるのかについて話し合います。
・まずは保健室や相談室なら過ごせるかな?
・午前中までなら学校に居られるかな?
このようなスケジュールは段階的に子ども一人で登校が出来るよう、一週間ごとに話し合い、改めて決めるようにしましょう。
この決められたスケジュールを一度決めたら、子どもだけではなく親も厳守することが必要です。
スケジュールに子どもが同意をしたということは、約束をしたということと同義です。
そのため、約束事を提案した保護者から本来とは異なるスケジュールを提案してしまうと、子どもからの信頼が失われてしまいます。
また、「今日は午前中で帰るから」とゴールが見えているから頑張れるものです。
そのため、一見普通そうに過ごせていたとしても、異なるスケジュールの提案は控えなければなりません。
登校への付き添い・出席時間の限定
スケジュールが決まったら、それを子どもに厳守させなければなりません。
いざ登校を再開しようとすると次のような反応が起こりがちです。
- 眠いから布団から出ない
- 着替えることを嫌がる
- 部屋から出ようとしない
- 教室に入ることを渋る
このような反応にもスケジュールを守って登校させなければなりません。
ここで子どもが学校を回避する場面を作ってしまうと、さらに学校に対する不安が強くなり、再登校が難しくなってしまいます。
そのような場合は根気強く子どもを説得し、登校を促しましょう。
この時、子どもの不安があまりにも強かったり、拒否するようであれば、まずは母親と一緒に学校の相談室で遊んで過ごす、母親と1時間だけ一緒に授業を受けてみるなどの段階を挟みます。
このような実施を繰り返しながら、スケジュールを変更し、徐々にフェードアウトしていけるようにするのが良いでしょう。
この手続きは再登校の一番の壁となっている「不安」を消去するためのエクスポージャーと呼ばれる心理療法の一種です。
学習理論や行動療法についての詳細は次の記事で詳しく解説しています。
まとめ:正しい登校刺激によって脱不登校を
今回は登校刺激について解説してきました。
記事のポイントをまとめます。
- 敏感な不登校児にとって、学校に関わるあらゆる刺激が「登校刺激」となりうる
- 登校刺激を与えないと問題が長期化してしまうため、注意しながら登校刺激を与えるべき
- 子どもとの信頼関係を築き、同意が得られたら、積極的に登校刺激を与える
【参考文献】
- 日本教育心理学会総会発表論文集 61 (0), 475-
- 内田利広(2013)『不登校支援における登校刺激と適応最近接領域 : 「初めてのおつかい」にみる心理的負荷の与え方』京都教育大学紀要 123 75-85
- 園山繁樹(1991)『段階的登校強制法による登校拒否の早期対応 』中国短期大学紀要 22 191-201