こんにちは、Nameck(なめっく)です。
今回は心理学的に不安と不登校という状態がどのような関連を解説します。
今回の記事を読めば、不登校がなぜ起こり、今まで続いているのかを理解することが出来ます。
・不登校の子の不安を解消するにはどうしたらいいんだろう?
こういった疑問に答えるために、次のポイントを解説していきます。
【この記事で学べること】
- 不安を正しく理解するための心理学理論とは
- 不安が不登校を長期化させるメカニズム
- 不安を解消し、再登校するための行動療法
本ブログの内容は、科学的に分析された心理学論文の情報に基づいています。
それでは、さっそく不安と不登校の関係について学んでいきましょう!
不安を正しく理解するための心理学理論とは
不安を正しく理解するためには、「行動理論」と呼ばれる心理学理論を学びましょう。
行動理論の心理学は今から100年以上前の20世紀にまで遡ります。
恐怖条件づけ
古くから心理学は、人間の考えていること、つまり「意識」とは何かということを明らかにしようと取り組んできました。
しかし、意識は頭から取り出して外部から観察することは出来ません。
このような流れから、客観的に観察可能な「行動」を研究対象とすることで心の働きを調べようとする立場が生まれます。
このような心理学的立場のことを行動主義心理学と呼びます。
その創始者であるワトソン,J.B.という学者は、ある条件下に人間を置くことで、その人のこころを思ったように操作できると考え、次のような実験を行いました。
【アルバート坊やの実験】
- 生後9か月の乳幼児に、様々な動物を目の前に呈示する。
- その中で白いネズミが提示されたときだけ、ハンマーで金属を叩いて大きな音を出し、怖がらせる。
- 上記の手続きを繰り返す
最初、乳幼児は白いネズミを全く怖がっていませんでした。
しかし、この実験手続きを行うことで、大きな音が鳴っていなくても白いネズミを見るだけで乳幼児は怯えて泣き出すようになったのです。
また、白いネズミ以外にも、白いうさぎや毛皮など質感の似ているものに対しても怖がるようになったのです。
このような理論のことは「恐怖条件づけ」と呼ばれます。
オペラント条件づけ
また、ワトソンから始まった行動主義心理学は、動物の行動を中心に発展をしていきます。
その中でも、動物の自発的な行動を環境の操作によって増やすことが出来ることを発見した理論がオペラント条件づけです。
この理論の提唱者であるスキナー,B.F.は次のような実験を行いました。
【オペラント条件づけ】
- スキナー箱と呼ばれる装置にネズミを入れる
- 箱の中にはレバーがあり、そのレバーを下げることによって自動的に餌が出てくるような仕組みになっている
- ネズミがやみくもに動き、偶然レバーに触れることによって餌を手に入れる
- 次第に「レバーを押すこと」で餌を手に入れられることを学び、レバーを押す行動が増加する
この実験では、偶然起こった行動であっても、「餌」という魅力的な目標があることによって本来ネズミがとらない「レバーを押す」という行動の出現頻度が増加しています。
このような、刺激によって行動の生起頻度を高めることを「強化」と呼びます。
また、それとは正反対に、刺激によっては行動の生起頻度を下げることも可能です。
例えば、交通違反に罰則が設けられているのは、違反によって嫌な思いをすることによって「もうその違反をしないようにしよう」とするためです。
このような、刺激によって行動の生起頻度を下げることを「罰」と呼びます。
不安が不登校を長期化させるメカニズム
それでは、このような心理学理論はどのようにして不登校と関連するのでしょうか。
不安の形成
恐怖条件づけでは、本来怖いと思っていなかった白いネズミという刺激が恐怖を引き起こす刺激と同時に提示されることによって、新たな結びつきが生じてしまうのでした。
不登校の原因は「学校ストレス」です。
それまでは学校に対して不安を感じることがなくても、何らかのストレスフルな事態が学校で起こることにより、本来は怖いと感じてはいなかった「学校」を怖いと考えてしまうようになるのです。
欠席行動の開始
オペラント条件づけは、自発的に起こす行動の生起頻度を強化によって増やしたり、罰によって減らすことのできるという理論でした。
実は、刺激を与えること(正)と刺激を取り去ること(負)の組み合わせによって強化と罰は次の4つに分類することが出来ます。
強化 | 罰 | |
正 | 正の強化(ご褒美を与えるなど) | 正の罰(𠮟りつけるなど) |
負 | 負の強化(お手伝いを免除するなど) | 負の罰(おやつ抜きにするなど) |
このとき、不登校と関連しているのは「負の強化」です。
負の強化には、嫌悪的な状況を取り去ることのできる行動の頻度が上昇するという特徴があります。
そもそも「学校に行きたくないので休む」ということは、子どもの自発的な回避行動であると言えます。
欠席行動をとることで、学校で起こる嫌なことを避けることが出来るのです。
嫌悪的な状況を避けられたというメリットは、欠席行動をより強化します。
結果として、次第に欠席数が増えていき、不登校となってしまうのです。
不安の維持と不登校の長期化
学校ストレスによって学校に対し不安を抱くようになり、欠席という回避行動はなかなか抜け出すことが出来ません。
その理由は、不安と回避行動の関係にあります。
そもそも不安を抱くと、人間はその状況を避けようとしがちです。
これは人間として当たり前のことです。
確かに、不安が高まった時に回避行動を取ることで、一時的に不安を低減させることが出来ます。
しかし、それと同時に「本当に恐れている事態が起こるかどうか」を確かめる機会が奪われてしまうのです。
例えば、次の日に苦手なプレゼンを控えていて、「失敗して人前で恥をかいてしまったらどうしよう」という不安を抱えたとします。
しかし、本当に失敗してしまうかどうかは試してみなければ分かりません。
回避行動を取ることは、想像している悪い結果が考えすぎているだけで、実際は起こらなかったと経験する機会を奪ってしまいます。
その結果、いつまで経っても不安が下がることがなく、それに伴って回避行動が引き起こされ続けるため、不登校が長期化してしまうのです。
不安を解消し、再登校するための行動療法
学校に対する不安を持ち、休むことで学校を避けている場合、不安自体を解消しなければ、自発的な登校へと導くことは出来ません。
そのために必要となるのがエクスポージャーと呼ばれる技法です。
エクスポージャーとは
エクスポージャーとは、不安障害など不安を主症状とする精神疾患に特に有効性が認められている心理療法の1つです。
エクスポージャーでは、あえて不安を感じている対象へ直面させ、回避することを禁止するという形を取ります。
この技法では、次の2つの心理的作用を引き起こすことで不安症状を抑えようとします。
- 消去
- 馴化
消去とは
消去とは、誤って結びついた刺激と反応の結びつきを弱めたり、なくすことを指します。
仕事でのプレゼンで失敗してしまうことを不安に思っている場面を取り上げましょう。
この場合、本当に怖い場面はプレゼンに失敗し、その場にいた人から批判されたり、笑われたりすることで、顔が赤くなってしまったり、頭が真っ白になってしまうことのはずです。
そのため、本来の刺激と反応の関係性は次のようになります。
反応:「赤面してしまうことや頭が真っ白になってしまうこと」
このプレゼン場面と「赤面してしまったり、頭が真っ白になってしまうかもしれない」という誤った結びつきを解消するためには、他者からの批判や嘲笑がない状態でプレゼンを行ってみることです。
この効果は消去によって誤った結びつきが弱まることで生じているのです。
馴化とは
馴化とは、同じ刺激を何回も繰り返すことで、慣れが生じる現象のことです。
馴化が生じてしまえば、刺激に対して鈍感になるため、反応が生じなくなります。
例えば、家の前で道路工事が始まったとしましょう。
初日は工事の騒音がとてもうるさく、家の中でリラックスして過ごすことが出来なくなるかもしれません。
しかし、何日も工事の音がするため、次第に音に慣れてきてそれほど気にならなくなってきます。
これが「馴化」です。
これは不安・恐怖反応にも同様です。
怖いと思っているものは避け続けているから怖いのであり、最初は嫌でもエクスポージャーにより強制的に刺激へ繰り返し触れていれば、次第に慣れが生じ、恐怖反応は起こらなくなります。
エクスポージャーに沿って考えた不登校状態
このようにエクスポージャーは不安を低減させるために有効な手法です。
これを不登校状態に当てはめるとどのようになるでしょうか。
まず、欠席をするということは学校場面からの回避行動になります。
本来子どもにとって嫌なのはストレス場面であるはずですが、それが学校場面という刺激と誤って結びつきが生じているため、学校自体が怖くなっているのです。
そのため、エクスポージャーでの刺激への直面は、欠席させず学校に登校させるということになります。
園山(1991)はエクスポージャーの理論を不登校に応用した「段階的登校強制法」を紹介しており、一定の効果をあげています。
その通りです。
エクスポージャーは無理やり子どもを学校に行かせるのではありません。
確かに回避行動はとれないよう制限を加えますが、子どもと話し合い同意を得たり、安全を保障するなどして初めて実施することが出来るので、頭ごなしに子どもに登校を強制することがないようにしましょう。
まとめ:不安を解消することが不登校解決の鍵
今回は不安と不登校の関係について解説しました。
記事のポイントをまとめます。
- 不安や欠席行動は誤って学習された行動や反応
- 学校ストレスによって誤った学習が生じ、不登校状態が生み出される
- 正しいエクスポージャーによって学校への不安や欠席行動は消去することが出来る
【参考文献】
- 斎藤繁(2009)『<研究論文>新行動主義理論とB.F.スキナーの行動工学』社会福祉学研究 (4) 55-63
- 米山直樹(2007)『不登校への行動論的アプローチにおいて用いられる技法名に関する概念的考察』人文論究 56 (4), 47-58
- 二瓶正登・澤幸祐(2017)『不安症および曝露療法を理解するための現代の学習理論からのアプローチ』専修人間科学論集. 心理学篇 7 45-53