こんにちは、Nameck(なめっく)です。
今日のテーマはポジティブ心理学についてです。
ポジティブ心理学では幸せを構成する5つの要素をまとめた理論「PERMAモデル」において、Achievement(達成)の重要性が説かれています。
・目標を達成できるのは能力が高い人のことでしょ…
・どのような目標を掲げるのが望ましいの?
こういった思いに答えるために、次のことを深掘りして解説していきます。
【この記事で学べること】
- 目標の達成が幸せに繋がるメカニズム
- スキルよりもモチベーションが大事な理由
- どのような目標の設定が望ましい?
本ブログの内容は、科学的に分析された心理学論文の情報に基づいています。
それでは、さっそく達成に関する心理学理論について学んでいきましょう!
目標達成が幸せに繋がるメカニズム
目標を達成することは本人にポジティブな感情をもたらすと同時に、自信の源となります。
一般的に呼ばれる自信や達成によって得られる感情のことは、心理学的には次のような概念で呼ばれています。
- 達成関連感情=目標達成によって得られる感情
- 自己効力感=自信
達成関連感情
目標の達成場面で喚起される感情は達成関連感情と呼ばれています。
そして、達成関連感情の中には、さらなる目標達成を導くポジティブな感情が含まれており、それが幸せへとつながるという説明が可能です。
達成場面で人が感じる感情には、次のようなものがあるとされています。
【達成関連感情の種類】
感情 | 具体例 | |
成功場面 | 喜び | やったー!、嬉しい!など |
驚き(成功) | 意外だ…、本当かなあ…?など | |
統制感・向上心 | やれば出来るんだ!、頑張ってよかった! | |
承認への期待 | 親や先生に喜んでもらえる、褒められるなど | |
誇り・友人への意識 | 自慢したいなど | |
失敗場面 | 不愉快・困惑 | 情けない…、悲しいなど |
無能感 | 自分は頭が悪い、自信を無くしたなど | |
罰の予感 | 先生や親に怒られる…など | |
後悔 | もっと頑張ればよかったなど | |
驚き(失敗) | どうして失敗したんだろう、まさかなど | |
悔しさ | 悔しい…、ちくしょう!など | |
諦め | まぁいいや、しかたない…など |
このようにして見てみると、達成関連感情は非常に多彩であることが分かります。
その中でも、太字で示した「達成志向的な感情群」は望ましいとされています。
【達成志向的な感情群】
- 喜び
- 統制感・向上心
- 不愉快・困惑
- 後悔
- 驚き(失敗)
- 悔しさ
これらの感情は目標の達成そのものに積極的な態度や高い成果を導く感情です。
つまり、課題に取り組み、このような達成感情を感じることはさらに取り組もうとするやる気を導き、成長することが出来るという好循環をもたらすのです。
自己効力感
そして、目標を達成することは自己効力感つまり「自信」を強めることに繋がります。
自己効力感とは、「目標を達成するために必要な行動を自分が上手く出来るかどうか」についての予想のことです。
自信を持っている人は不安などが少ないように、自己効力感は精神的健康にもポジティブな影響を与える望ましい概念であることが知られています。
それだけでなく、自己効力感の高さは進路決定や血中コレステロール値、運動スキルの習得や学業達成など多くの健康、幸福に関する事柄にポジティブな影響を与えることが分かっています。
この概念を提唱したバンデューラ博士によれば、自己効力感は次の4つの要因から形成されるとされます。
【自己効力感を構成する要因】
- 成功体験
- 代理体験(成功場面を目撃すること)
- 励まし
- 生理的変化(脈拍や鼓動など)
その中でも、目標の達成によって得られる自己効力感が最も高く、安定していることが指摘されています。
スキルではなくモチベーションが大事な理由
多くの目標達成のためには、その目標へのモチベーションがカギを握っています。
確かに、個人の持っている能力はパフォーマンスに依存します。
しかし、能力があるからといって、まったくやる気がない人は高いパフォーマンスを残せるでしょうか?
もともと頭が良いけれども、やる気がない場合は事前のテスト勉強に取り組まないため、本番で良い結果を残すことが出来ないはずです。
このような課題の達成に関するモチベーションは達成動機と呼ばれており、1960年代にアトキンソンという心理学者によって達成動機づけ理論が提唱されました。
達成動機づけ理論とは
達成動機づけ理論は、期待と価値によって行動が決定されるという前提のもと、次の2つの動機を見出しました。
- 達成欲求
- 失敗恐怖
達成欲求は、「達成したときに誇りを感じることのできる能力」とされ、成功を収めることへの願望の強さを表します。
例えば、次のような状態は達成欲求の強い状態です。
これとは逆に、失敗恐怖は「目標が達成できなかったときに恥を体験できる能力」であり、失敗を避けたいと思う願望の強さのことです。
失敗恐怖が強い状況というのは次のような状態です。
これらの欲求はどちらもテストという課題に対し、勉強をするという行動を促すモチベーションであるという共通点があります。
しかし、これらの欲求の強さは「成功したい」という目標を掲げるのか、「失敗したくない」という目標を掲げるのかという方向性の違いを生むのです。
どのような目標の設定が望ましい?
結論として、自分の能力が向上させるという目標の設定が望ましいでしょう。
あなたは何かに取り組むときにこのような目標の設定をしていませんか?
人がどのような目標を掲げるのかについての心理学研究は達成目標理論研究と呼ばれ、次のような3つの目標について研究がなされています。
【達成目標理論における3つの目標】
- 遂行接近目標(達成欲求・失敗恐怖)
- 遂行回避目標(失敗恐怖)
- 熟達目標(達成欲求)
遂行接近目標とは
遂行接近目標とは、成功への接近、つまり達成することで人から褒められたり、自信の能力を評価されるような目標を設定することです。
例えば、部署内で一番の営業成績を残す、クラスの中の他のほとんどの生徒より良い成績を取る(クラスで上位の成績を取る)などの目標設定が該当します。
この目標設定の大きな特徴は「他者との競争に勝ち、周囲から高い評価を得ること」が挙げられます。
この目標は達成欲求と失敗恐怖の両方から導かれるものであることが分かっています。
このような目標を掲げる人は「過努力者」と呼ばれ、心の底では自分の能力に確信を持てず常に不安を経験する人であるとされています。
そのため過努力者は、他者との競争に勝つことによって自身の価値を再認識し、不安を低減させようという傾向があるために、達成欲求と失敗恐怖の両方から影響を受けるのです。
遂行回避目標とは
遂行回避目標とは、課題に失敗しているところを周囲の人に目撃されることを避けるという目標設定を指します。
例えば、「テストで0点を取ったら恥ずかしいから勉強するようにしよう」、「上司に怒られると嫌だから仕事をしなくては」などネガティブな状況を避けることが目標となっている場合が挙げられます。
遂行回避目標では、「自身の能力の低さ、無能さが周囲に露見してし、ネガティブな評価を受けること恐れる」という特徴があります。
この目標は失敗恐怖から導かれるとされ、3つの達成目標の中で最も望ましくないことが分かっています。
多くの研究から遂行回避目標は内発的な興味や課題の成績の低下と関連を持つことが指摘されているのです。
このような思いからの目標は嫌々取り組むことになるので内発的な興味も引き出されず、パフォーマンスも良くないため避けたほうが良いと言えるでしょう。
熟達目標とは
熟達目標は、達成欲求から導かれる目標であり、課題に取り組むうえでいかに自分が上手くなるかということに焦点を当てた目標設定です。
これまでの遂行接近目標や遂行回避目標では課題の成功もしくは失敗という結果に主眼が置かれていましたが、熟達目標では課題の結果ではなく、そのプロセスにおける自分の成長に焦点を当てています。
実際の達成目標研究においても熟達目標は課題への興味や成績の向上に最も影響を与える目標であることが分かっています。
達成動機はモチベーションであり、個人が持っているパーソナリティから影響を受けるため、意識的に変化させることは難しいでしょう。
例えば、失敗恐怖の強い人は様々なことで不安を感じやすい特性不安という性格の持ち主であり、「失敗しないようにしなくては」という考えが浮かばないようにすることは難しいでしょう。
しかし、どのような目標の設定は自分自身の意思で決めることが出来ます。
そのため、失敗恐怖が強く、つい「失敗しないようにしなくては」と考えがちな人も、自分にはそのような思考の癖があることを自覚できれば「今回は結果はどうあれ自分が上手くなることを目標にしよう」と意識的に目標の設定が出来るでしょう。
まとめ:自分なりの目標を達成することが幸せへの第一歩
今回はポジティブ心理学のPERMAモデルの1つ「達成」について解説しました。
記事のポイントをまとめます。
- 課題の達成はポジティブな感情や自信をもたらすことで幸せへとつながる
- 達成には能力だけでなく、モチベーションが大切
- 自分が成長するという目標の達成が最も望ましい
【参考文献】
- 奈須正裕(1994)『達成関連感情の特徴と構造』教育心理学研究 42 (4), p432-441
- 西村薫・野村亮太・丸野俊一(2012)『自己効力感に関する研究の展望と今後の課題 : 展望的自己効力感の提唱』九州大学心理学研究 13 1-9
- 田中あゆみ・山内弘継(2000)『教室における達成動機,目標志向,内発的興味,学業成績の因果モデルの検討』 心理学研究 71 (4), 317-324
- 村山航(2003)『達成目標理論の変遷と展望』心理学評論 46 (4), 564-583