こんにちは、Nameck(なめっく)です。
一般的にポジティブ思考は精神的健康度や課題のパフォーマンスも高い、適応的な人物であるとされています。
しかし…
・ポジティブ思考にもデメリットやリスクはないのかな?
・あまりにも楽観的な「ポジティブすぎる人」も望ましいってこと?
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今回はこのような疑問にお答えするために、非現実的な楽観性について解説していきます。
- 過剰な非現実的楽観性とは
- 非現実的楽観主義者の健康
- 非現実的楽観性の落とし穴
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「非現実的楽観性」や「ポジティブ・イリュージョン」と呼ばれる過剰な楽観傾向を取り上げた心理学研究に基づき、ポジティブ主義の落とし穴について見ていきましょう。
過剰な非現実的楽観主義とは
「ポジティブ・イリュージョン」や「ポジティブ幻想」とも呼ばれる非現実的楽観性とは、現実には起こりえない、肯定的に偏った認知が精神的健康につながるとする研究領域です。
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順番に解説していきますね。
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そもそもこの研究は、抑うつになると現実を正確にとらえられるとする「抑うつリアリズム研究」をベースとしてスタートしました。
抑うつリアリズム研究とは
抑うつリアリズムとは、気分の落ち込みなどの精神症状がみられる抑うつ状態の人はそうでない人よりも現実に沿った推論を行うことが出来るとする仮説です。
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そこで、アーロイとエイブラハムソンという学者は抑うつ者と健常者に対し、ボタンを押すとライトが点灯するという実験を行いました。
【抑うつリアリズムの実験手続き】
- 健常者と抑うつ者に対し、それぞれボタンを押すとライトが点灯する装置を用意し、ボタンを押すもしくは押さないという選択肢を自由に取らせる。
- なお、ボタン押し課題を試行している最中に、ボタンを押してもライトがつかない、ボタンを押さなくてもライトがつくなど、ボタン操作がライトの点灯に影響をしない場合もあった。(50%の割合でボタンが反応する、70%の割合でボタンが反応するなど)
- 40回の試行を実施した後、自身のボタン操作がライトの点灯にどれくらいの割合で影響を与えていたと思うかについて尋ねた。
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実験の結果、抑うつ者は自分がボタンを押した(押さなかった)ことによりライトが点灯した(点灯しなかった)割合を正確に把握しており、逆に健常者は「自分のボタン操作によってライトが点灯した回数が多かった」と自身のボタン操作の影響力を過大評価していたのです。
つまり、この結果から抑うつに陥っている人のほうが現実に即して物事を捉え、自身の影響力を適切に評価すると考えることができるのです。
これによって、抑うつ者はリアリズム(現実主義)であり、健常者のほうがポジティブに偏っている認知を持っているという考えが広まっていきました。
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ポジティブ・イリュージョンの提唱
これを受け、1989年にテイラーとブラウンという学者は「健康な人が、自身に関わる様々な出来事をよりポジティブに考える傾向がある」と指摘し、それをポジティブ・イリュージョンと名付けました。
これがなぜ「イリュージョン」つまり「幻想」と呼ばれるかというと、この現象の測定では現実には起こり得ないはずの結果が示されたからです。
テイラーとブラウンは、ポジティブ・イリュージョンの測定において「平均的(一般的)な人に比べて、ポジティブもしくはネガティブな出来事がどの程度起こると思うのか」について尋ねるという方法を採用しました。
皆さんもぜひ考えてみて下さい。
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一般的な人に比べ、宝くじに当選する可能性はどの程度(何%)あると思いますか?
【ネガティブ】
一般的な人に比べ、交通事故に巻き込まれる可能性はどの程度(何%)あると思いますか?
多くのポジティブイリュージョンに関する研究では、精神的に健康な人は他の平均的な人に比べ、ポジティブな出来事は自分に起こりやすく、ネガティブな出来事は自分に起こりにくいという結果が得られています。
しかし、これは統計学上あり得ない結果です。
なぜなら、多くの人が他の平均的な人に比べポジティブなことが起こりやすい、ネガティブなことは起こりにくい幸運な人なのであれば、一般的な「幸運さ」という平均値が上昇し、ほかの平均的に人に比べて幸運という事態が理論的に成立しなくなってしまうためです。
例えば…
40人クラスの学生に「あなたの成績はクラスの上位何%に入ると思いますか?」と尋ねたとしましょう。
このクラスの学生の全員が現実に沿った認知を出来ているのであれば、この学生たちの回答の平均は50%となるはずです。(例えば、ある人は1位、ある人は最下位の40位の平均は20位となり、それは40人クラスの50%に位置します)
ここで実際の能力よりも自身の学力を高く見積もっている学生がたくさんいるようであれば、回答の平均値は50%を超えてきてしまいます。
これがポジティブイリュージョンという現象です。
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この「現実にはあり得ない」ということから「イリュージョン」もしくは「幻想」と呼ばれているのです。
ポジティブイリュージョンが生じる領域
ポジティブイリュージョンが提唱されてから多くの学者によって研究がなされており、主に精神的健康を保っている人には次のような自分に関わる領域を現実よりもポジティブに考える傾向があることが指摘されています。
【ポジティブイリュージョンが生じる領域】
- 肯定的な自己評価(人よりも優しい、頭が良いなど)
- 出来事への過度なコントロール感(起こった出来事の原因であると考える)
- 他者よりも幸運であるという非現実的楽観傾向(自分は競馬で当たりやすいなど)
みなさん自身、もしくは周りの人に当てはまるようなことはないでしょうか?
・私は晴れ女だから出かけるときいつも晴れるの
・世の中には事故に遭う人もいるけど、私は交通事故に巻き込まれることなんてないだろう
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特に日本人には「ポジティブな出来事が自分に起こるだろう」という考えはあまり見られませんが、「ネガティブな出来事は人に比べて起こりにくいだろう」と考える傾向がみられることが指摘されています。
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ネガティブな人にとって自分がポジティブに偏った認知を持っていると言われてもピンとこないかもしれません。
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非現実的楽観主義者の健康
心理学研究ではポジティブイリュージョンという現象がみられるとすることに加え、ポジティブイリュージョンは精神的健康や社会適応に結びついているという主張がなされています。
従来、精神的健康は現実世界や自己について正確に把握していることが重要であるとされてきました。
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しかし、ポジティブイリュージョンの提唱により、肯定的な方向に歪んだ認知こそが健康に繋がるという主張がなされるようになったのです。
代表的な根拠としては次のような報告が挙げられます。
ポジティブイリューションは…
- 健康な人に広く見られる現象で、「幻想」が強いほど精神的健康度が高くなる
- ガンやエイズなど重篤な疾患を持つ患者も、「幻想」が強いほど健康的である
健康な人を対象とした研究
そもそも、ポジティブイリュージョンは抑うつリアリズム研究の裏返しとしてスタートしたという経緯から、「精神的健康であること=ポジティブイリュージョンがみられる」という前提があります。
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それだけではなく、多くの心理学研究では、精神的健康度の高さとポジティブイリュージョンの高さには関連が見られると報告しています。
外山・桜井(2000)では、大学生や専門学生を対象に研究を行い、ポジティブイリュージョンが高いほど抑うつ傾向が低いという結果が得られています。
そのため、ポジティブイリュージョンを持つことは精神的健康や社会適応に結びつくとする主張がなされているのです。
重篤な疾患を抱える人を対象とした研究
ポジティブイリュージョンは健康な人だけではなく、重篤な疾患を抱える人も対象としている研究があります。
そして、そこでもポジティブイリュージョンは健康に結びつくものであるとする主張がなされています。
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じゃあ、ポジティブであればポジティブであるほど幸せで健康に過ごせるということ…?
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ポジティブイリュージョンの落とし穴
確かに、ポジティブイリュージョンを対象とした研究の多くでは、ポジティブイリュージョンが強いほど健康的であるという結果が示されています。
しかし、その結果は本当に現実を反映しているのでしょうか?
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実は、上述のポジティブイリュージョンは健康に結びつくとする研究では、調査を行った時点で、対象者が感じている・考えていることを質問紙に回答を得るという形でデータを収集しているものがほとんどです。
このような調査法のことを質問紙調査と呼びます。
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しかし、この方法によって得られたデータはあくまで、現時点で対象者自身が感じていることを反映しています。
つまり、その自己報告自体がポジティブイリュージョンによって肯定的な方向に歪められており、現実を反映していない可能性があるのです。
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ポジティブすぎる人は自分を偽っている
このような、質問紙の歪みを検出するために、「社会的望ましさ」と呼ばれる傾向の強さを測定する方法があります。
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社会的望ましさって、どれだけ素直に回答できているかを測る指標とも言えそう!
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安田・佐藤(2000)は、ポジティブイリュージョンがみられる人の中には、自分自身をよりよく見せようとし、ネガティブな出来事を意識しないようにする「抑圧」という情報処理バイアスが強い人がいる可能性を指摘し、楽観的傾向と社会的望ましさの高低から次のような4群を抽出しました。
社会的望ましさ傾向 | |||
低 | 高 | ||
不安傾向 | 低 | 低不安型 | 抑圧型 |
高 | 高不安型 | 防衛的高不安型 |
-
- 低不安型:不安が生じにくい傾向のある人
- 抑圧型:不安は生じているものの、それを意識しないようにしている人
- 高不安型:不安を感じやすい人
- 防衛的高不安型:不安は少なくても、不安であると訴えやすい人
この抑圧型と呼ばれるタイプの人は、ネガティブな感情を抱きにくいという特徴がありますが、それはあくまで主観的な感覚の話であり、実際に身体にはストレス反応が生じているという報告があり、不適応的な人物であると考えれています。
そして、研究の結果、この抑圧型は他群には見られない失敗などの負の結果のフィードバックを適切に評価しないために非現実的な楽観傾向を保っていることが示されたのです。
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問題を問題と考えず無視し、取らなければいけない対処をしないのであればそれは健康的・適応的とは言えないでしょう。
他者評価との比較研究
また、自己報告によるポジティブな歪みの影響を排除する方法としては、自己評価と他者評価を比較するという方法も考えられます。
そして、他者からの評価より自分の能力を高く見積もっている人は、自分では健康的かつ適応的だと思い込んでいるものの、周囲の人からはそのような評価を受けていないことが示されています。
外山(2008)では、小学生と担任教師に対し、社会的コンピテンスのポジティブイリュージョンの有無による精神的健康と適応の関連について研究を行いました。
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この研究では、社会的コンピテンスの自己評価と他者評価を比較し、ポジティブに歪んだ認知を持っている人の精神的健康と適応を検討しています。
そういう「ちょっと勘違いしている人」はどのような特徴があるのかしら…?
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研究の結果、社会的コンピテンスにポジティブイリュージョンが生じている人は、精神的健康と周囲との関係性を良好であると答える一方で、周囲からは攻撃的であり、仲間から受容されにくいことが示されています。
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まとめ:楽観的=望ましいとは限らない
- 現実に即さない楽観性は、健康な人に広く見られる一般的な現象である。
- 非現実的な楽観性を健康と結び付ける研究は多いものの、ポジティブすぎること=健康・適応と単純に結びつけることは危険。
- あまりにも偏ったポジティブではなく、現実に即したポジティブさが望ましい
【参考文献】
- 藪垣 将(2013)『ポジティブ・イリュージョン研究の展望』東京大学大学院教育学研究科紀要 52 419-426
- 外山美樹・桜井茂男(2000)『自己認知と精神的健康の関係』教育心理学研究 日本教育心理学会教育心理学研究編集委員会 編 48 (4), 454-461
- 安田朝子・佐藤徳(2000)『非現実的な楽観傾向は本当に適応的といえるか』教育心理学研究 日本教育心理学会教育心理学研究編集委員会 編 48 (2), 203-214
- 外山美樹(2008)『小学生のポジティブ・イリュージョンは適応的か──自己評定と他者評定からの検討──』心理学研究 79 (3), 269-275