【非現実的楽観性】ポジティブすぎるデメリットとは?

ポジティブ心理学
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こんにちは、Nameck(なめっく)です。

一般的にポジティブ思考は精神的健康度や課題のパフォーマンスも高い、適応的な人物であるとされています。

しかし…

・なんでもポジティブに考えられる人って物事をちゃんと考えていないんじゃ?

・ポジティブ思考にもデメリットやリスクはないのかな?

・あまりにも楽観的な「ポジティブすぎる人」も望ましいってこと?

サイ子さん
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今回はこのような疑問にお答えするために、非現実的な楽観性について解説していきます。

  • 過剰な非現実的楽観性とは
  • 非現実的楽観主義者の健康
  • 非現実的楽観性の落とし穴
Nameck(なめっく)
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ポジティブであることは望ましいですが、それがあまりにも過剰であった場合も望ましいのでしょうか?

「非現実的楽観性」や「ポジティブ・イリュージョン」と呼ばれる過剰な楽観傾向を取り上げた心理学研究に基づき、ポジティブ主義の落とし穴について見ていきましょう。

過剰な非現実的楽観主義とは

「ポジティブ・イリュージョン」や「ポジティブ幻想」とも呼ばれる非現実的楽観性とは、現実には起こりえない、肯定的に偏った認知が精神的健康につながるとする研究領域です。

「現実には起こり得ない肯定的に偏った認知」って頭が混乱してきた…
サイ子さん
サイ子さん
大丈夫です。

順番に解説していきますね。

Nameck(なめっく)
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そもそもこの研究は、抑うつになると現実を正確にとらえられるとする「抑うつリアリズム研究」をベースとしてスタートしました。

抑うつリアリズム研究とは

抑うつリアリズムとは、気分の落ち込みなどの精神症状がみられる抑うつ状態の人はそうでない人よりも現実に沿った推論を行うことが出来るとする仮説です。

Nameck(なめっく)
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それまで、うつ病の人などに見られていた否定的な思考の背景には、物事を過剰にネガティブにとらえるバイアスが背景にあると考えられていました。

そこで、アーロイとエイブラハムソンという学者は抑うつ者と健常者に対し、ボタンを押すとライトが点灯するという実験を行いました。

【抑うつリアリズムの実験手続き】

  1. 健常者と抑うつ者に対し、それぞれボタンを押すとライトが点灯する装置を用意し、ボタンを押すもしくは押さないという選択肢を自由に取らせる。
  2. なお、ボタン押し課題を試行している最中に、ボタンを押してもライトがつかない、ボタンを押さなくてもライトがつくなど、ボタン操作がライトの点灯に影響をしない場合もあった。(50%の割合でボタンが反応する、70%の割合でボタンが反応するなど)
  3. 40回の試行を実施した後、自身のボタン操作がライトの点灯にどれくらいの割合で影響を与えていたと思うかについて尋ねた。
Nameck(なめっく)
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例えば、50%条件では、40回ボタンを押したとき20回ライトが点灯することになります。
現実に即した回答は「自分がライトの点灯に与えた影響は50%」になるのね!
サイ子さん
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Nameck(なめっく)
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しかし、参加者は40回常にボタンを押すわけではなく、「押す・押さない」は自由に選択でき、「ボタンを押したけど点灯しなかった」、「ボタンを押さなかったけれど点灯した」回数を覚えておくことはとても難しいため、自分のボタン操作がどれほどライトの点灯に影響を与えているのかを正確に把握することはできないでしょう。

実験の結果、抑うつ者は自分がボタンを押した(押さなかった)ことによりライトが点灯した(点灯しなかった)割合を正確に把握しており、逆に健常者は「自分のボタン操作によってライトが点灯した回数が多かった」と自身のボタン操作の影響力を過大評価していたのです。

つまり、この結果から抑うつに陥っている人のほうが現実に即して物事を捉え、自身の影響力を適切に評価すると考えることができるのです。

これによって、抑うつ者はリアリズム(現実主義)であり、健常者のほうがポジティブに偏っている認知を持っているという考えが広まっていきました。

抑うつリアリズム研究から、健常者は自分の行動が結果に与える影響力を大きく見積もる傾向があることが分かったのね!
サイ子さん
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ポジティブ・イリュージョンの提唱

これを受け、1989年にテイラーとブラウンという学者は「健康な人が、自身に関わる様々な出来事をよりポジティブに考える傾向がある」と指摘し、それをポジティブ・イリュージョンと名付けました。

これがなぜ「イリュージョン」つまり「幻想」と呼ばれるかというと、この現象の測定では現実には起こり得ないはずの結果が示されたからです。

テイラーとブラウンは、ポジティブ・イリュージョンの測定において「平均的(一般的)な人に比べて、ポジティブもしくはネガティブな出来事がどの程度起こると思うのか」について尋ねるという方法を採用しました。

皆さんもぜひ考えてみて下さい。

Nameck(なめっく)
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【ポジティブ】

一般的な人に比べ、宝くじに当選する可能性はどの程度(何%)あると思いますか?

【ネガティブ】

一般的な人に比べ、交通事故に巻き込まれる可能性はどの程度(何%)あると思いますか?

多くのポジティブイリュージョンに関する研究では、精神的に健康な人は他の平均的な人に比べ、ポジティブな出来事は自分に起こりやすく、ネガティブな出来事は自分に起こりにくいという結果が得られています。

しかし、これは統計学上あり得ない結果です。

なぜなら、多くの人が他の平均的な人に比べポジティブなことが起こりやすい、ネガティブなことは起こりにくい幸運な人なのであれば、一般的な「幸運さ」という平均値が上昇し、ほかの平均的に人に比べて幸運という事態が理論的に成立しなくなってしまうためです。

例えば…

40人クラスの学生に「あなたの成績はクラスの上位何%に入ると思いますか?」と尋ねたとしましょう。

このクラスの学生の全員が現実に沿った認知を出来ているのであれば、この学生たちの回答の平均は50%となるはずです。(例えば、ある人は1位、ある人は最下位の40位の平均は20位となり、それは40人クラスの50%に位置します)

ここで実際の能力よりも自身の学力を高く見積もっている学生がたくさんいるようであれば、回答の平均値は50%を超えてきてしまいます。

これがポジティブイリュージョンという現象です。

全員が「ほかの人よりも優れている」と考えていてもそれは実現することは理論上不可能なので、その想定が歪んでいると考えられるのね!
サイ子さん
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この「現実にはあり得ない」ということから「イリュージョン」もしくは「幻想」と呼ばれているのです。

ポジティブイリュージョンが生じる領域

ポジティブイリュージョンが提唱されてから多くの学者によって研究がなされており、主に精神的健康を保っている人には次のような自分に関わる領域を現実よりもポジティブに考える傾向があることが指摘されています。

【ポジティブイリュージョンが生じる領域】

  • 肯定的な自己評価(人よりも優しい、頭が良いなど)
  • 出来事への過度なコントロール感(起こった出来事の原因であると考える)
  • 他者よりも幸運であるという非現実的楽観傾向(自分は競馬で当たりやすいなど)

みなさん自身、もしくは周りの人に当てはまるようなことはないでしょうか?

・私は普通の人より優しい

・私は晴れ女だから出かけるときいつも晴れるの

・世の中には事故に遭う人もいるけど、私は交通事故に巻き込まれることなんてないだろう

サイ子さん
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特に日本人には「ポジティブな出来事が自分に起こるだろう」という考えはあまり見られませんが、「ネガティブな出来事は人に比べて起こりにくいだろう」と考える傾向がみられることが指摘されています。

確かに、交通事故のニュースを見て、自分にも起こるかもしれないと真剣に考えたら、怖くなって車に乗らなくなってしまうかもしれないわ!
サイ子さん
サイ子さん

ネガティブな人にとって自分がポジティブに偏った認知を持っていると言われてもピンとこないかもしれません。

Nameck(なめっく)
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しかし、「将来ガンになるだろう」と真剣に病気を恐れている人が少ないように、自分が重大なネガティブな出来事に巻き込まれるかもしれないという肯定的に偏った認知は私たちに身近なものであると言えるでしょう。

非現実的楽観主義者の健康

心理学研究ではポジティブイリュージョンという現象がみられるとすることに加え、ポジティブイリュージョンは精神的健康や社会適応に結びついているという主張がなされています。

従来、精神的健康は現実世界や自己について正確に把握していることが重要であるとされてきました。

Nameck(なめっく)
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例えば、不安というネガティブな感情は、これから起こりうる事態が予想できない場合に高くなり、現実に起こっていることを冷静に分析、理解することが出来れば不安は弱まるでしょう。

しかし、ポジティブイリュージョンの提唱により、肯定的な方向に歪んだ認知こそが健康に繋がるという主張がなされるようになったのです。

代表的な根拠としては次のような報告が挙げられます。

ポジティブイリューションは…

  • 健康な人に広く見られる現象で、「幻想」が強いほど精神的健康度が高くなる
  • ガンやエイズなど重篤な疾患を持つ患者も、「幻想」が強いほど健康的である

健康な人を対象とした研究

そもそも、ポジティブイリュージョンは抑うつリアリズム研究の裏返しとしてスタートしたという経緯から、「精神的健康であること=ポジティブイリュージョンがみられる」という前提があります。

Nameck(なめっく)
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現に、ポジティブイリュージョンの提唱者であるテイラーとブラウンは、健常者の少なくとも85%、平均で95%に見られるというデータを提出しているほどです。

それだけではなく、多くの心理学研究では、精神的健康度の高さとポジティブイリュージョンの高さには関連が見られると報告しています。

外山・桜井(2000)では、大学生や専門学生を対象に研究を行い、ポジティブイリュージョンが高いほど抑うつ傾向が低いという結果が得られています。

そのため、ポジティブイリュージョンを持つことは精神的健康や社会適応に結びつくとする主張がなされているのです。

重篤な疾患を抱える人を対象とした研究

ポジティブイリュージョンは健康な人だけではなく、重篤な疾患を抱える人も対象としている研究があります。

そして、そこでもポジティブイリュージョンは健康に結びつくものであるとする主張がなされています。

Nameck(なめっく)
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ガンやエイズなどストレス負荷の高い疾患を抱える患者もポジティブイリュージョンが強いほど心理的な適応状態が良好であるとする結果が示されています。
健康な人も重い病気を抱えている人にも、ポジティブイリュージョンが強いほど健康だという研究結果が示されているのね。

じゃあ、ポジティブであればポジティブであるほど幸せで健康に過ごせるということ…?

サイ子さん
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ポジティブイリュージョンの落とし穴

確かに、ポジティブイリュージョンを対象とした研究の多くでは、ポジティブイリュージョンが強いほど健康的であるという結果が示されています。

しかし、その結果は本当に現実を反映しているのでしょうか?

研究で科学的なデータが示されているし、間違いはないんじゃないの…?
サイ子さん
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実は、上述のポジティブイリュージョンは健康に結びつくとする研究では、調査を行った時点で、対象者が感じている・考えていることを質問紙に回答を得るという形でデータを収集しているものがほとんどです。

このような調査法のことを質問紙調査と呼びます。

Nameck(なめっく)
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質問紙調査とは、「気分が落ち込み、何もしたくなくなってしまうことがよくある」などの質問文に対し、①全く当てはまらない~⑤とてもよく当てはまるの中から選択をすることでデータを収集する方法です。
質問紙調査って、アンケートみたいな形式の調査なのね!
サイ子さん
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しかし、この方法によって得られたデータはあくまで、現時点で対象者自身が感じていることを反映しています。

つまり、その自己報告自体がポジティブイリュージョンによって肯定的な方向に歪められており、現実を反映していない可能性があるのです。

確かに、ポジティブイリュージョンが強い人ほど、「あなたは健康ですか?」のような質問に対しては、より良い結果を書いてしまうことになる可能性があるのね!
サイ子さん
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ポジティブすぎる人は自分を偽っている

このような、質問紙の歪みを検出するために、「社会的望ましさ」と呼ばれる傾向の強さを測定する方法があります。

社会的望ましさって何…?
サイ子さん
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Nameck(なめっく)
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社会的望ましさとは、あなたはうそをついたことがありますか?のように社会的に望ましいとされていることではあるものの、それを守ることが難しいような項目から、自分自身をよりよく偽る傾向のことを指します。
確かに、嘘をついてはいけないということは誰しもがわかっているけれど、日常的についつい嘘をついてしまったりするものね!

社会的望ましさって、どれだけ素直に回答できているかを測る指標とも言えそう!

サイ子さん
サイ子さん

安田・佐藤(2000)は、ポジティブイリュージョンがみられる人の中には、自分自身をよりよく見せようとし、ネガティブな出来事を意識しないようにする「抑圧」という情報処理バイアスが強い人がいる可能性を指摘し、楽観的傾向と社会的望ましさの高低から次のような4群を抽出しました。

社会的望ましさ傾向
不安傾向 低不安型 抑圧型
高不安型 防衛的高不安型
    • 低不安型:不安が生じにくい傾向のある人
    • 抑圧型:不安は生じているものの、それを意識しないようにしている人
    • 高不安型:不安を感じやすい人
    • 防衛的高不安型:不安は少なくても、不安であると訴えやすい人

この抑圧型と呼ばれるタイプの人は、ネガティブな感情を抱きにくいという特徴がありますが、それはあくまで主観的な感覚の話であり、実際に身体にはストレス反応が生じているという報告があり、不適応的な人物であると考えれています。

そして、研究の結果、この抑圧型は他群には見られない失敗などの負の結果のフィードバックを適切に評価しないために非現実的な楽観傾向を保っていることが示されたのです。

それって、どういうこと…?
サイ子さん
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Nameck(なめっく)
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例えば、テストの成績が非常に悪かった場合、普通は次のテストでも「このままでは悪い点数を取ってしまう」と結果に基づいた予測を行いますが、抑圧型の人はテストの点数が悪くても「次のテストは良い点数が取れる」という根拠のない自信を崩さないのです
あまりにも強い非現実的な楽観性は現状のネガティブな結果が無視されていて、「今回ダメだったから、次はもっと勉強しよう」のような対処行動が生じないのね!
サイ子さん
サイ子さん

問題を問題と考えず無視し、取らなければいけない対処をしないのであればそれは健康的・適応的とは言えないでしょう。

ポジティブイリュージョンが生じている人の中には、ネガティブな事実を見ないように自分自身を偽っている人が混ざっており、そのような人は適応的ではない。

他者評価との比較研究

また、自己報告によるポジティブな歪みの影響を排除する方法としては、自己評価と他者評価を比較するという方法も考えられます。

そして、他者からの評価より自分の能力を高く見積もっている人は、自分では健康的かつ適応的だと思い込んでいるものの、周囲の人からはそのような評価を受けていないことが示されています。

外山(2008)では、小学生と担任教師に対し、社会的コンピテンスのポジティブイリュージョンの有無による精神的健康と適応の関連について研究を行いました。

Nameck(なめっく)
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社会的コンピテンスとは、他者とよりよい人間関係を構築維持するための能力の総称で、(厳密には違いますが)コミュ力だと思ってもらって差し支えないでしょう。

この研究では、社会的コンピテンスの自己評価と他者評価を比較し、ポジティブに歪んだ認知を持っている人の精神的健康と適応を検討しています。

周りからは「この人って、ちょっと…」と思われていても自信満々な人が、自己評価と他者評価の差があるポジティブな人なのね!

そういう「ちょっと勘違いしている人」はどのような特徴があるのかしら…?

サイ子さん
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研究の結果、社会的コンピテンスにポジティブイリュージョンが生じている人は、精神的健康と周囲との関係性を良好であると答える一方で、周囲からは攻撃的であり、仲間から受容されにくいことが示されています。

Nameck(なめっく)
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このようなことから、ポジティブイリュージョンが生じている人は、自分自身は適応していると考える「内的適応」が高いものの、周囲と良好な関係を築く「外的適応」は高くない人物であり、望ましい人物像であるとは言えないと指摘されています。
ポジティブイリュージョンが生じている人は、「自分は望ましい、上手く出来ている」と思い込んでいるが、周囲からは煙たがられてしまうような対人関係の問題を抱えやすい可能性がある。

まとめ:楽観的=望ましいとは限らない

今回は偏ったポジティブな認知【ポジティブイリュージョン】について解説しました。
記事のポイントをまとめます。
  • 現実に即さない楽観性は、健康な人に広く見られる一般的な現象である。
  • 非現実的な楽観性を健康と結び付ける研究は多いものの、ポジティブすぎること=健康・適応と単純に結びつけることは危険。
  • あまりにも偏ったポジティブではなく、現実に即したポジティブさが望ましい

【参考文献】

  • 藪垣 将(2013)『ポジティブ・イリュージョン研究の展望』東京大学大学院教育学研究科紀要 52 419-426
  • 外山美樹・桜井茂男(2000)『自己認知と精神的健康の関係』教育心理学研究 日本教育心理学会教育心理学研究編集委員会 編 48 (4), 454-461
  • 安田朝子・佐藤徳(2000)『非現実的な楽観傾向は本当に適応的といえるか』教育心理学研究 日本教育心理学会教育心理学研究編集委員会 編 48 (2), 203-214
  • 外山美樹(2008)『小学生のポジティブ・イリュージョンは適応的か──自己評定と他者評定からの検討──』心理学研究 79 (3), 269-275
プロフィール
この記事を書いた人
Nameck

国立大学に進学も、なじむことが出来ず引きこもりに…。
そんな中で心理学と出会い、知識0の状態から独学で臨床心理士指定大学院に合格。
心理学を学びたいけど、ハードルの高さを感じている人の役に立ちたくて心理学情報を発信中。

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