こんにちは、Nameck(なめっく)です。
今回のテーマは無気力と不登校の関係についてです。
遊びや勉強に関心を示さない無気力状態で学校に行っていないお子さんに対してどのように接していいのか困っている保護者様も多いはずです。
・無気力状態からどのように不登校に繋がるのかな?
・無気力な子どもが不登校から立ち直るためにはどうしたら良いの?
こういった疑問に答えるために、次のポイントを解説していきます。
【この記事で学べること】
- 心理学的な無気力の原因とは
- 無気力な子どもが不登校になるメカニズム
- 無気力な子が不登校から立ち直るためには
本ブログの内容は、科学的に分析された心理学論文の情報に基づいています。
それでは、さっそく無気力と不登校の関係について学んでいきましょう!
心理学的な無気力の原因とは
無気力による不登校は全体の25%と不登校の中でも多いケースです。
しかし、明確にその原因となる出来事があるわけでもないので、なぜ子どもが無気力になってしまったのか分からないという方も多いでしょう。
無気力となっている原因としては次の3つのパターンが考えられます。
- 適切な目標を持っていない
- 無力感・絶望感を感じている
適切な目標を持っていない
目標を持つことが出来ない「無目標」の状態は、行動を起こさないという無気力的な行動をとります。
私たちは何らかの目標を掲げることが出来れば、必要な行動を起こすやる気が湧いてきます。
・かけっこで一番になりたいからランニングを頑張ろう!
このような具体的な内容だけでなく、「将来しっかりした大人になる」という漠然とした目標も、日々の当たり前だと思っている行動を支えています。
やる気をもって行動を引き出すために必要な目標を失ってしまうと、どのようになってしまうでしょうか。
・何をしたらよいかわからない…
・自分がどうすればよいのかわからない…
このような状態では、実際の行動は生じにくいでしょう。
しかし、このような状態だと傍から見れば、なぜ「どうすれば良いのかわからない」と言っている意味がよく分かりません。
「テストで良い点を取るために勉強を頑張ればいいじゃない」、「お友達をたくさんつくるために自分から話しかけてみればいいじゃない」などと言ってみても、一向に子どもはその通りの行動を起こしません。
このように、外から見ていて「本当にやる気があるのかな?」と疑問を抱くような無気力状態になってしまうのです。
また、目標を持っているとしても、その種類。
私たち学校に通っていた理由は、社会に出て自立して生きていくために必要な知識や力を身に着けるためでしょう。
このような目標はあまりにも漠然としていますが、子どもの人生や将来の目標とあるものは大きく次の2つに分けられています。
- 自律的な人生・将来目標
- 他律的な人生・将来目標
目標内容理論によれば、他者によってコントロールされて生まれた目標(達る的な目標)に偏って目標設定している場合は、無気力などの精神的不健康に陥りやすいとされているのです。
それぞれの目標には次のような種類があります。
自律的目標 | 自己成長 | 生き方や人生を自分で選び、多くのことを学んで成長すること |
親密性の獲得 | 頼りになる友だちを見つけたり、相談できる人を持つこと | |
社会貢献 | 困っている人を助け、人の役に立って世の中を良くすること | |
身体的健康 | 元気で健康に過ごすこと | |
他律的目標 | 金銭的成功 | お金をたくさん稼ぎ、ぜいたくな暮らしをすること |
外見的魅力 | かっこいい(かわいい)と思われること | |
社会的名声 | 偉くなり、有名になること |
学校で学び、成長することや、お友達と仲良く過ごすなど日常的にある些細な出来事を楽しみ、学校に行く大きな理由となります。
しかし、将来はyoutuberになって、「有名になってお金を稼ぐんだ」などの目標を掲げているとどうでしょうか。
・学校の子と遊ぶより、youtube見てるほうが楽しいし…
このように、学校に行くことで得られる知識や社会性は他律的な目標に繋がらないと学校に行く意欲を失ってしまうでしょう。
無力感・絶望感を抱いている
無力感とは、ネガティブな事態を「自分の力では変えることは出来ない」と考えてしまうことを指します。
学校生活では、様々なネガティブな事態に直面します。
例えば、次のようなものが挙げられるでしょう。
- 友だちと喧嘩してしまった
- テストで悪い点を取ってしまった
- 先生に怒られてしまった
このような状況を「自分の力ではどうすることもできない」と諦めてしまうのが無力感です。
・私は頭が悪いから勉強したってテストで上手くいきっこない…
・先生に怒られてばっかりで、褒められるようなことなんてどうせ出来ない…
無力感ではこのように考えてしまうのです。
しかし、「どうせ私なんて…」とネガティブな考えに陥ってしまうことは何も珍しいことではありません。
皆さんも、一度は学校に行っているころに無力感を抱いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、これがずっと継続してしまうとそれは「絶望感」になります。
絶望感とは、ネガティブな事態を「これからもずっと」自分の力では変えることが出来ないだろうと考えることです。
無気力な子どもが不登校に陥るメカニズム
それでは、それぞれのタイプの無気力はどのようにして不登校に繋がるのでしょうか。
それぞれ見ていきましょう。
無目標の子どもが不登校に陥るメカニズム
心理学でこのような無気力を説明するために非常に有効なのが期待×価値理論と呼ばれる心理学理論です。
期待×価値理論では人間のやる気を次のような掛け算で表します。
成功への期待は「物事を上手く出来るだろう」という自信や見通しのことです。
これに対し、行動の価値とは「行動を遂行したことによって得られる結果の魅力」です。
例えば、勉強を例に挙げて考えてみましょう。
算数が得意で、テストでは100点を簡単にとることが出来る子が次のような考えを持っていたとします。
このように算数の勉強によって結果を無駄だと考えている状態は行動の価値はゼロに等しいと言えるでしょう。
そのため、いくら算数が得意で成功の期待が100だったとしても、目標の価値0をかけると次のような結果になってしまいます。
そのため、目標を全く持てていない場合は、もちろん目標の価値がゼロになるため、無気力になってしまいます。
また、他律的な目標を持っている場合も同様です。
お金を稼ぎたい、有名になりたいなどといった他律的な目標でモデルとなるような人はTVやyoutubeなどのメディアで見かけますが、「俳優になるなら算数をしても無駄だ」と学校に行く意味を見出せず不登校になってしまうのです。
無力感・絶望感の子どもが不登校に陥るメカニズム
無力感・絶望感はストレスに曝され続けたことによる結果です。
人間は長期的にストレスに曝され続けることによって疲弊してしまいます。
そして、ストレス反応と呼ばれる症状が生じるのです。
このストレス反応は多彩な症状を持っています。
- 生理的反応:疲労感・頭痛・息苦しさなど
- 心理的反応:不安・憂鬱・怒りなど
- 行動的反応:引きこもり・不眠・暴飲暴食など
そして、このストレス反応の中に無力感があります。
このようにストレスの結果として無力感を抱いてしまうと、「ネガティブな状態は変えられないから努力しても無駄だ」とさらに意欲が低下してしまう悪循環に陥ります。
このように問題が長期化することで、「この先もずっと悪い事態は変わりっこない」と絶望感へ発展してしまうのです。
・いくら勉強したとしても頭が悪いから良い成績を取れるはずない…
こうして嫌なことがある学校には行きたくないと登校する意欲を失い、不登校になってしまうのです。
ストレスは無気力だけでなく、不登校に大きく関わっています。
無気力な子が不登校から立ち直るためには
それでは、どのようにすれば無気力な子が不登校から立ち直ることが出来るのでしょうか。
適切な目標を設定する
目標がなく無気力になっているケースでは、適切な目標を設定してあげることが大切です。
かといって、一方的に目標を決めてしまうことは避けるほうが良いでしょう。
このように、かえって子どもは心を閉ざしてしまいます。
そのため、信頼できる人と相談しながら目標を設定したほうが良いでしょう。
身近な目標を設定しよう
ただし、いきなり「学校に行けるようにする」や「大学に進学する」のような大きな目標を掲げるのは避けましょう。
そのため、身近な目標を設定するほうが良いでしょう。
身近で達成しやすい目標をクリアしていく経験を積み重ねれば、目標を達成することの楽しさを感じやすく、また、新たにチャレンジしようという意欲が湧いてきます。
熟達目標を設定しよう
心理学研究では、掲げる目標の種類によって取り組みや意欲に差が出ることが示されています。
達成目標理論では次の2つの目標を挙げて、それぞれの特徴を説明しています。
- 遂行目標:他人から褒められることを目標とする
- 熟達目標:過去の自分よりも成長することを目標とする
そして、より望ましいとされているのは熟達目標です。
熟達目標は新しいことを学んで、自分の力を高めようとする目標であり、例え途中で失敗してしまっても、粘り強く取り組むことが分かっています。
これに対し、遂行目標は他者から自分の能力が高いことを認めてもらおうとする目標です。
他者から能力を評価してもらうということは、課題の結果のみに注目しがちです。
課題をクリアできているうちは大きな問題にはなりませんが、ひとたび失敗してしまうと「もう駄目だと」ネガティブな感情を抱き、諦めてしまうのです。
そのため、遂行目標ではなく、熟達目標を設定するほうが良いでしょう。
具体的には次のような目標が挙げられるでしょう。
- 朝起きたら明るい声であいさつをする
- 自主学習のドリルを一日5ページ行う
- 早寝早起きをする
- 近くの公園で30分身体を動かす
どのような目標が良いのかは子どもと話し合って決めましょう。
焦るのは禁物です。
焦らず、小さな目標を1つずつクリアする経験を重ねて、目標を達成することに価値を感じる体験が出来るようにしましょう。
ストレスに対処する
ストレスによって無力感、絶望感が生まれているようであればストレスを軽減するべきです。
その際に重要になってくる心理的要因は次の3つが挙げられます。
- 自己効力感
- レジリエンス
- ソーシャルサポート
自己効力感
自己効力感とは、目標達成のために必要な行動を上手く行える自信のことです。
自己効力感は「きっと上手く出来ない」と考える無力感や絶望感とは対極の概念です。
現に、桜井(1989)では、絶望感の高い子どもは自己効力感が低いことが示されています。
すなわち、しっかりとした自信をつけることが出来れば、無力感や絶望感に陥ることを防ぎ、無気力から脱することが出来るのです。
レジリエンス
レジリエンスは、ストレスへの強さ、抵抗力です。
つまり、レジリエンスが高いほどストレス反応を発しにくく、ストレスフルな状況も上手く乗り切ることが出来ます。
これは無気力においても同じです。
山下ら(2011)の研究では、レジリエンスに心理的ストレス反応の1つである無気力の低減効果が認められています。
そのため、ストレスから生じる無力感や絶望感が原因の無気力から立ち直るためにはレジリエンスが重要なカギを握っていると言えるでしょう。
ソーシャルサポート
ソーシャルサポートとは周囲の人から得られる様々なサポートのことを指します。
自分一人ではストレスフルな事態を解決できなかったとしても、誰かが助けてくれれば問題は解決できるかもしれません。
それだけではなく、何か困ったときに頼れる相手がいるということは非常に心強いでしょう。
このようなことからソーシャルサポートはストレス反応の緩衝要因として重視されているのです。
実際に、本間・松田(2012)では、ストレスが高い状況ではソーシャルサポートが少ないことで無気力が高くなったことが示されています。
これはソーシャルサポートの持つストレス低減効果が無ければ、無気力になりやすくなってしまうことを示しています。
そのため、不登校の子が得られるソーシャルサポートを増やし、無気力を低減させることが求められるでしょう。
まとめ:なぜ無気力なのかを理解し、正しい対策を
今回は無気力状態と不登校の関係について詳しく解説しました。
記事のポイントをまとめます。
- 無気力の原因は無目標か絶望感を抱いていること
- 学校に行くことに価値を感じれない、もしくはストレスが強いことで無気力が引き起こされ不登校になる
- 無気力を直すためには適切な目標設定やストレス軽減が大切
【参考文献】
- 櫻井茂男(2021)『無気力から立ち直る: 「もうダメだ」と思っているあなたへ』金子書房
- 高山草二(2006)『無気力と無力感 : 動機の期待×価値理論からの分析 』島根大学教育学部紀要 39 45-53
- 本間里美・松田英子(2012)『ストレッサーと実行されたソーシャルサポートが無気力に与える影響―大学生における縦断研究―』ストレス科学研究 27 (0), 64-70